【2024年改正】交際費「1万円」基準の落とし穴|会議費との使い分けと税務調査で否認されないための鉄則【完全版】

「飲み代は一人5,000円まで」という長年の常識が、2024年(令和6年)4月1日から「一人1万円」へと倍増されました。

このニュースを聞いて、「やった!これで経費が使い放題だ」と喜んだ経営者の方も多いかもしれません。しかし、税理士として警鐘を鳴らさなければなりません。この改正は、単なる「規制緩和」であると同時に、「税務署のチェックがより実質的な判断になる」というシグナルでもあるからです。

「1万円以下なら何でも会議費で落ちる」わけではありません。 「人数を水増しして単価を下げればいい」というのは脱税行為です。

税務調査の現場では、「金額」以上に「実態」が見られます。本当に会議は行われたのか? 参加者は実在するのか? その証拠はあるのか?

この記事では、最新の「1万円ルール」を正しく活用して節税メリットを最大化しつつ、税務調査で「否認(=追徴課税)」されないための、プロフェッショナルな実務防衛策を解説します。

特に、感覚的な判断ではなく、「租税特別措置法」や「法人税基本通達」、そして実際の「裁判例」に基づいた、法的に正しい判断基準を徹底的に深掘りします。

第1章:2024年改正の核心「5,000円基準」から「1万円基準」へ

まずは、今回の改正内容を、法的根拠に基づいて正確に把握しましょう。

改正のポイント:交際費等からの「除外規定」の拡大

これまで、社外の人との飲食代が「一人当たり5,000円以下」であれば、それは「交際費等」から除外され、「会議費」などの全額損金(経費)として処理することが認められていました。

これが、物価高騰への対応として、2024年4月1日以降の支出から「一人当たり1万円以下」に引き上げられました。

【法的根拠】
  • 租税特別措置法 第61条の4 第4項:交際費等の範囲から除かれる飲食費の規定
  • 租税特別措置法施行令 第37条の5:上記飲食費の金額基準(1万円)の規定

この改正により、1万円以下の飲食費を「交際費の損金算入限度額(中小企業は年800万円)」の外側に出すことができるため、実質的に経費として使える総枠が広がったことになります。

対象となる「飲食費」の範囲と注意点

この特例が適用されるのは、あくまで「飲食その他これに類する行為」です。

  • ○ 対象:レストラン、居酒屋、カフェでの飲食代、弁当代、ケータリング代。
  • △ 実態判断:お土産代、贈答品。これらは原則として「接待交際費」です。ただし、飲食店等での飲食後に、そのお店のお土産(折詰など)を持ち帰らせるような場合は、飲食と一体の行為として「飲食費」に含まれると解釈されるケースがあります。
  • × 対象外:ゴルフ接待、観劇、旅行、タクシー代(送迎費)。これらは金額に関わらず、原則通り「交際費」としてカウントされます。

第2章:【最重要】「会議費」として認めてもらうための証拠と実態

ここが最も重要なポイントです。「1万円以下なら自動的に会議費になる」のではありません。「会議の実態」があって初めて会議費になります。

「会議費」の定義とは?

会議費とは、文字通り会議に関連して支出する費用です。その基準は「法人税基本通達 61の4(1)-8」に示されています。

法人税基本通達 61の4(1)-8(会議に関連して通常要する費用)
会議に関連して、茶菓子、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用は、交際費等に該当しない。

つまり、「会議の実態」があり、かつ「通常要する費用(常識的な金額)」であれば、交際費ではなく全額損金の「会議費」として処理できるのです。

税務調査で負けないための「証拠セット」

税務署に「これは会議ではなく、単なる飲み会(交際費)ですね」と指摘された時、反論するための証拠として、「法人税基本通達 9-7-7」で定められた以下の事項を記録しておく必要があります。

  1. 飲食等のあった年月日(領収書の日付)
  2. 参加した得意先等の氏名・名称・関係(「〇〇株式会社 △△様ほか」)
  3. 参加人数(正確に!)
  4. 飲食費の金額
  5. 飲食店の名称・所在地

これらを領収書の裏面などにメモしておくことは必須です。さらに、「議事録」や「アジェンダ」を残しておけば、会議の実態証明として完璧です。

【注意】アルコールが入ると「会議」とは認められにくい?
通達上、「アルコールが入ったら会議費ではない」という規定はありません。しかし、調査実務においては、「酒席でまともな会議ができるのか?」という観点から、アルコールを含む飲食は「会議」ではなく「接待(交際費)」とみなされやすい傾向にあります。
否認リスクを避けるためには、お酒を伴う場合は無理に「会議費」にせず、「1万円以下の除外飲食費」として処理する(科目は「接待交際費」や「厚生費」などを使うが、税務申告上で交際費から除外する)のが安全です。

第3章:【絶対NG】やってはいけない「偽装工作」

「1万円以下に抑えるために、ちょっと数字をいじろう」。この誘惑に負けると、脱税行為として重いペナルティ(重加算税)を課されます。

NG行為1:人数の水増し(割り勘のごまかし)

実際は2人で飲んで3万円(一人1.5万円)だったのに、領収書のメモに「4人」と書いて、一人7,500円に見せかける。

これは典型的な脱税(事実の仮装)です。税務調査では、手帳のスケジュールやSNS、同席者への反面調査などで事実確認が行われます。嘘は必ずバレます。

NG行為2:領収書の分割

お店に頼んで、3万円の領収書を「1万円×3枚」に分けてもらう。

これも非常に危険です。同じ日付、同じ店、連番の領収書があれば、調査官は即座に「分割工作」を見抜きます。店側にも迷惑がかかる行為ですので、絶対に行ってはいけません。

NG行為3:同じ店での「時間差会計」

「1次会で8,000円、2次会で5,000円。店を変えれば別判定」というのは通達上も認められています。

しかし、「同じ店」で時間を空けて会計を分けた場合などは、調査実務上、「一連の飲食行為」とみなされ、合算して判定される可能性が高いです。形式的に分けただけでは通用しません。

第4章:社内の飲み会は「福利厚生費」になるか?

「社員との飲み代も、1万円以下なら会議費でいいの?」という質問も多いですが、社内飲食のルールは社外接待とは全く異なります。

「社内交際費」は原則全額が交際費

社員だけの飲み会や食事会は、「飲食費の除外規定(1万円ルール)」の適用対象外です(租税特別措置法61条の4第4項)。

したがって、社内飲食費は原則として全額が「交際費」となります(中小企業の800万円枠内であれば経費にはなります)。

例外:会議費と認められるケース(大阪地裁判決)

では、社内の人間と食事をしたら絶対に交際費なのか?というと、そうではありません。 業務遂行上必要な打ち合わせに伴う食事であれば、「会議費」として認められる可能性があります。

【判例コラム:大阪地裁 平成8年3月27日判決】
この裁判では、役員間で行われた業務打ち合わせに伴う飲食費について、「その費用が会議の開催に通常要する費用と認められる限り、交際費等には該当しない」という判断が示されました。
つまり、「社内であっても、実態として会議が必要であり、金額が常識の範囲内であれば会議費として処理できる」という道が開かれています。

ただし、単なる慰労会や親睦会は会議費にはなりません。その場合は、「全社員を対象」とするなど「福利厚生費」の要件を満たすかどうかの判断になります。

第5章:【FAQ】経費処理の迷いを断つ実務Q&A(8選)

Q1. 「1万円」は税込ですか?税抜ですか?

A. 会社の「経理方式」によります。

会社が「税抜経理」を採用していれば「税抜1万円(税込11,000円)」までOK。「税込経理」を採用していれば「税込1万円」までです。免税事業者や簡易課税事業者は税込経理が基本です。

【注意点】
インボイス未登録店(免税事業者)での飲食の場合、消費税の仕入税額控除が制限されるため、税抜経理方式であっても、「控除できない消費税額」を含めた金額で1万円判定を行う必要があります。実務上は計算が複雑になるため、税込金額で判定しておくのが安全です。

Q2. 取引先へのお中元・お歳暮は「1万円以下」なら除外できますか?

A. できません。金額に関わらず「交際費」です。

「飲食費の特例」は文字通り飲食に限られます。物品の贈答は対象外です。

Q3. カフェで一人で仕事をした代金は?

A. 「会議費」ではなく「雑費」等で処理しますが、頻度に注意です。

一人での利用は「交際」ではないため、そもそも交際費の論点にはなりません。業務上必要な場所代(ノマドワーク)であれば経費になります(所得税法45条、法人税基本通達9-7-15の準用)。ただし、頻度が高すぎると「個人的な飲食」とみなされ否認されるリスクがあります。

Q4. タクシーチケットを渡した場合は?

A. 飲食の一部ではなく「送迎費」として交際費になります。

飲食の帰りにタクシー代を出した場合、それは飲食費には含まれません。金額に関わらず全額が交際費となります。

Q5. ゴルフ接待のランチ代は除外できますか?

A. プレーと一体の場合は交際費です。

ゴルフ場でのランチや茶店代は、ゴルフという「一連の接待行為」の一部とみなされ、原則として交際費に含まれます。プレー終了後のパーティ代などは、独立した飲食として判定できる場合があります。

Q6. インボイス登録していない店での飲食はどうなりますか?

A. 法人税の経費にはなりますが、消費税の控除は制限されます。

交際費や会議費として計上すること自体に問題はありません。ただし、消費税の計算上、仕入税額控除ができない(または経過措置のみ)ため、会社が納める消費税額は少し増えます。

Q7. 割り勘の場合、自社負担分だけで判定していいですか?

A. はい、自社が負担した金額で判定します。

総額が大きくても、自社が負担した金額を「参加人数(自社+他社)」で割った金額が1万円以下であれば適用可能です。ただし、領収書の金額と負担額が異なるため、精算書などで計算根拠を明確に残す必要があります。

Q8. 領収書を紛失しました。出金伝票でいいですか?

A. 法人税法上は経費にできる可能性がありますが、消費税法上は控除できません。

インボイス制度下では、原則として適格請求書(領収書)の保存が仕入税額控除の要件です。紛失した場合、消費税控除は諦めることになります。法人税の経費としては、出金伝票等で支払いの事実を客観的に証明できれば認められる余地があります。

第6章:まとめと根拠法令リスト

交際費の「1万円基準」への改正は、中小企業にとって大きな追い風です。

しかし、そのメリットを享受するためには、領収書への正しい記録や、会議費と交際費の厳格な区分といった「地道な経理実務」が欠かせません。

「たかが飲み代」と侮ってどんぶり勘定をしていると、税務調査で否認され、高い授業料を払うことになります。逆に、正しく管理すれば、それは強力な節税ツールとなります。

私たち荒川会計事務所では、日々の記帳代行から税務調査対策まで、あなたの会社の経理を盤石にするサポートを行っています。「この領収書は大丈夫?」と迷ったら、ぜひ一度ご相談ください。

【本記事の根拠となる主な法令・通達】
  • 租税特別措置法 第61条の4(交際費等の損金不算入)
  • 租税特別措置法施行令 第37条の5(交際費等の範囲)
  • 法人税基本通達 61の4(1)-8(会議費の区分)
  • 法人税基本通達 9-7-7(交際費等の支出の事実を証する書類)
  • 大阪地裁 平成8年3月27日判決(社内会議費の容認事例)

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記事執筆監修者

荒川会計事務所(経営革新等支援機関(認定支援機関))代表税理士・登録政治資金監査人・行政書士の荒川 一磨です。

    

会社設立と創業融資を得意とし、何でも相談できる話しやすいパートナーであることを心掛けている事務所です。

事務所所在地 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-16 霞ビル8F

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